小学生のころ、家の近くの禿山に登って遊んだことがある。
それまで杉の木が山を覆っていたが、ある日伐採されていた。
禿山になって山の地肌がむき出しになると、登るのにそんなに難しくないことがわかったので、子供たちは絶好の遊び場を見つけた気分になった。
上と下とで陣取り合戦みたいなことをやった。
唐人草という竹の古くなったものを槍として投げ合った。
今思えば大分危ない遊びである。
もし目に刺さったら大変なことになる。
でも私たちは若い青々とした竹は決して投げなかった。
「危険」を知っていたからだ。
ある日O君と二人で登った。
いつもはもっと多人数で登るのだが、その日はなぜか二人だった。
「すみれの花のここのところを吸うと甘いよ」
O君はわたしに教えた。
吸ってみるとほのかに甘い味がした。
禿山の頂上で腰を下ろした。
手前に家並み、そして青い海。その向こうに遠く島影が見えた。
早く向こうに行ってみたいと思った。
まだ一度もこの町から離れたことがない。
しかし、父や母が連れて行ってくれるだろうとは思わなかった。
むしろ、自分は一人でいつか必ずあっちのほうに行くだろうと思った。
「遠いなあ」とO君。
「うん」と私。
大きくなって、あっちのほうに行ったら、こっちにはあまり帰ってこなくなるような予感がした。
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